彼岸花を色鉛筆で描く——深紅は混色でつくる

畦道に咲く彼岸花を色鉛筆で描いたスケッチブックと、赤・朱・紫・茶の色鉛筆、削り器が並ぶキービジュアル

赤い色鉛筆を思いきり濃く塗ったのに、彼岸花のあの赤にならない。塗り重ねるほど紙がテカって、色は黒っぽくくすむだけ。そんな経験はありませんか。

彼岸花の赤が難しいのは、あれが一本の赤鉛筆の中にない色だからです。深い赤は、赤に別の色を重ねてはじめて生まれます。そしてもう一つ、あの花が平面的になってしまう理由もはっきりしています。彼岸花のかたちは、外へ反り返る六枚の花びらと、そこから長く伸びる細い雄しべでできています。この二つさえ押さえれば、花は紙の上で立ち上がります。

深紅は、赤に一色足してつくる

色鉛筆の三段階の赤をつくる図解。左から朱はオレンジに赤を筆圧三割、赤は赤のみ筆圧六割、深紅は赤に紫を七対三で重ねた色見本と、根元に茶を重ねた例
朱・赤・深紅。塗りはじめる前に、赤を三段階つくっておきます。

まず、赤を三段階つくってから描きはじめてください。塗りながら濃さを探すと、途中で濁りやすくなります。

  1. 明るい朱

    オレンジを軽くのせ、その上から赤を筆圧三割で重ねます。

  2. 赤そのもの

    赤だけを筆圧六割で塗ります。

  3. 深紅

    赤を強めに置いたうえに、紫を重ねてください。目安は赤七に対して紫三くらい。紫を入れすぎると青みが立って冷たくなるので、三割を超えないようにします。

花の根元、茎に近づくあたりだけは、紫のかわりに茶色を少し重ねます。紫の深紅は影の赤、茶の深紅は乾いた赤。この二つを使い分けると、同じ花の中に温度差が出ます。

Tip 色を重ねたら、ティッシュを指に巻いて軽く一往復なでてください。芯の粒が紙の目に沈み、色がつながります。ただし、なでるのは深紅の面だけ。明るい朱の部分はこすらず残すと、そこが光って見えます。

芯はやわらかめのものが向いていますが、硬めしかなくても、筆圧を上げるのではなく重ねる回数を増やせば同じところへ届きます。

反り返りは、線ではなく境目で見せる

花びらの反り返りを示す断面図解。反り返った先端側は白とオレンジで明るく、折れ曲がる内側から根元は深紅で暗く、その境目をぼかさず残す様子
明るい面と暗い面の境目。ここをぼかさずに残すと、花びらが反って見えます。

彼岸花の花びらは、外側へくるりと反り返っています。この反りを輪郭線で描こうとすると、途端に紙細工のように平たくなります。

反り返りが目に見えるのは、明るい面と暗い面の境目があるからです。反って向こう側を向いた先のほうは光を受けて明るく、折れ曲がった内側から根元にかけては暗くなります。ですから、先のほうには白か明るいオレンジをごく薄くのせ、根元側には先ほどの深紅を置く。そして二つの間の境目を、ぼかさずに残してください。この一線を残すかどうかで、反りが出るか出ないかが決まります。

Note 花びらの先はとがっています。とがりは、線を短く切って描くのではなく、筆圧を抜いていくことでつくります。根元から先へ向かって、六割の筆圧を一割まで落としながら手を動かす。線が自然に細くなって消えれば、それがとがりです。

花びらは六枚。全部を同じ向きに反らせず、二枚ほどはこちらに倒し、一枚は奥へ向けてください。それだけで花が前後に開きます。

雄しべは、止めずに一度で引く

雄しべの描き方の図解。芯を長めに削る、紙のほうを回して手首は固定する、根元から先へ一度で引き切る動きを矢印で示し、先端に小さな葯をのせる例
弧を描いて伸びる雄しべ。線の勢いが、そのまま花の見せ場になります。

一つの花からは、雄しべが六本と雌しべが一本、大きく弧を描いて伸びています。この線が彼岸花の見せ場です。コツは三つあります。

  1. 芯を長めに削る

    普段より長めに削ってください。長い芯は寝かせて使えるので、細くて均一な線が続きます。

  2. 紙のほうを回す

    手首は固定して、紙を動かします。腕の可動域に逆らって曲線を引くと、途中で震えがちです。引きやすい向きへ紙を回してから引いてください。

  3. 一度で引き切る

    途中で止めて継ぎ足した線は、そこに節ができて糸くずのように見えます。失敗しても、また一本引けばいい。彼岸花の雄しべは何本もあるのですから、多少ばらついたほうが本物らしくなります。

順番は、花びらを先、雄しべを後です。逆にすると、花びらを塗るときに細い線をつぶしてしまいます。線の色は、根元側は花と同じ赤、先へ行くほど薄く。先端には小さな葯を、深紅か焦げ茶で点のように置きます。この小さな点があるだけで、線が「毛」ではなく「しべ」になります。

群生は、高さをそろえない

畦道の彼岸花の群生を描く図解。手前の花は高く濃く、奥の花は低く淡く小さく、花どうしを少し重ねて配置し、地面と茎の境に暗い影を入れた様子
手前は高く濃く、奥は低く淡く。高さをばらすと畦道の奥行きが出ます。

彼岸花は群れて咲きます。ところが群生を描くと、なぜか運動会の玉入れのように単調になりがちです。原因はたいてい、花の高さがそろっていることにあります。

高さは、わざとばらしてください。手前の一輪をいちばん高く、そこから左右へ低く散らします。そして花どうしを少し重ねること。重なった花は、後ろの花が前の花に隠れることで前後が生まれます。

奥の花は淡くします。深紅まで重ねず、二段階目の赤で止める。輪郭のとがりも追わず、ぼんやりした赤い塊のままにしておきます。遠くのものほど淡く、細部が消える。これだけで奥行きが出ます。

仕上げ 最後に、地面と茎が接するあたりへ暗い色を入れてください。焦げ茶に紫を少し重ねた影を、細く横に置く。画面の下に暗さがあると、上の赤が浮き上がります。

彼岸花には花のときに葉がありませんから、茎の根元は意外とすっきりしています。草を描き込みすぎないほうが、あの独特の立ち姿になります。一本だけを描く場合は逆に、余白を広く取ってください。群生は数で見せ、一本は空間で見せます。

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用意するもの

深紅は赤・紫・茶を重ねてつくるので、赤系だけでなく紫と茶がひととおり揃っているセットが描きやすくなります。芯はやわらかめで、長めに削っても折れにくいものを選んでください。

油性色鉛筆72色 3.0mmソフト芯・紙製ケースを開いたところ。赤系から紫、茶まで並ぶ色鉛筆

油性色鉛筆72色|3.0mmソフト芯・紙製ケース|初心者の塗り絵

赤・朱・紫・茶がひととおり揃う72色。やわらかめの3.0mm芯で重ねやすく、深紅の三段階をつくるのにちょうどよい色数です。はじめの一箱に。

¥1,580(税込)

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油性色鉛筆180色 3.3mmソフト芯・缶ケースに整然と並んだ色鉛筆

油性色鉛筆180色|3.3mmソフト芯・缶ケース|塗り絵・イラスト

赤系だけで何本も入る180色。混色に頼らず近い色を選べるぶん、手前の花と奥の花を色数で描き分けられます。群生をじっくり描きたい方に。

¥3,798(税込)

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まとめ

彼岸花が咲いているのは、一年のうちわずか一週間ほどです。気づいたときにはもう茎だけになっていた、という年もあるはずです。

短い期間しか会えない花だからこそ、描いて残す価値があります。写真と違って、描いた絵には「その日、自分がどこを見ていたか」が残ります。反り返りの境目を探した目も、雄しべを一度で引こうとして息を止めた時間も、全部その一枚の中に入っています。

深紅の三段階と、明暗の境目、そして一度で引く線。この三つは、彼岸花が終わったあとの秋の草花にもそのまま使えます。次は野菊やコスモス、あるいはこれから色づく身近な木の葉を、同じやり方で試してみてください。赤がつくれるようになると、紅葉を描くのが待ち遠しくなります。

彼岸花は、気づいた週に描きにいくしかない花です。散歩の途中で見つけたら、その日のうちに一輪だけでも紙に残してみてください。

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