コスモスを描いたのに、なぜか造花のように見えてしまう。茎はまっすぐな棒、花はきれいに整いすぎた円。目の前で風に揺れていたあの軽やかさが、紙の上からすっかり抜け落ちている。そんな覚えはありませんか。
コスモスの魅力は、花の形そのものより、細い茎がしなって花が風にさらわれそうになる、あの一瞬の姿にあります。そして揺れを描くために必要なのは、勢いのある線でも特別な道具でもありません。茎の引き方と、花びらの並べ方。この二つを変えるだけで、花はふわりと動き出します。
揺れは「線」ではなく「消し方」がつくる
まず茎からです。コスモスの茎は驚くほど細く、それでいて長い。ここを一筆で勢いよく引きたくなりますが、一筆で引いた線は棒のように硬く見えてしまいます。均一な線は、硬さとして目に映るからです。
やり方を変えて、次の順で描いてみてください。
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短い線を継ぐ
三センチほどの短い線を、少しずつ向きをずらしながら継いでいきます。継ぎ目は重ねて、線と線が一本につながって見えるまで置き直す。こうすると、わずかな揺らぎを含んだ線ができます。
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ゆるいS字に流す
全体としてはゆるいS字になるように流し、根元は垂直に近く、花に近づくほど傾きを大きくします。花の重みでしなっているのですから、上へ行くほど傾くのが自然です。
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茎の横を細く抜く
風を感じさせる仕上げです。茎のすぐ横を、消しゴムの角で細く一本抜いてください。練り消しを尖らせても構いません。
花びらは、隙間を先に決める
コスモスの花びらは、だいたい八枚です。ところが八枚を等間隔に、同じ長さで放射状に並べると、コスモスではなく単なる花の記号になってしまいます。
実物をよく見ると、花びらはきちんと並んでいません。隣どうしがぴたりと接している場所もあれば、ぽっかり隙間が空いて向こう側が見える場所もあります。ですから描くときも、まず隙間を二か所ほど決めてしまってください。先に「空ける場所」を決めると、残りの花びらが自然に不揃いになります。
向きもわずかにばらします。全部を真横に開かず、二枚ほどは手前に倒し、一枚は奥へ反らせる。それだけで花が前後に開きはじめます。
立体感を出す仕上げも一つだけです。花びらが重なっているところで、上になっている花びらの縁に沿って、下の花びらへ影の線を一本引く。濃いピンクか、薄い紫がよく合います。この一本があるだけで、平らだった花が前後に開きます。中心の花芯は黄色。輪郭を描かず、黄色を丸く置いてから、周囲にオレンジを少し重ねると奥まって見えます。
淡いピンクは、白の下地でつくる
コスモスのピンクを、ピンクの色鉛筆でそのまま塗ると、たいてい花だけが浮きます。市販のピンクは彩度が高く、紙の上で主張が強すぎるからです。
透明感のあるピンクは、下地からつくります。手順は簡単です。
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白を下地に敷く
はじめに白を、花びら全体に筆圧四割ほどでしっかり塗ってください。紙の目が白い粉で埋まります。
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赤を軽く重ねる
その上から赤を、筆圧二割の軽い手つきで重ねます。下地の白と混ざって、赤がやわらかい淡紅色に変わります。ピンクを使う場合も、同じように白を先に敷いてから重ねてください。
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濃さを三段階に分ける
花びらの先端に近いほうは白の下地だけに近い、ほとんど紙の色。中ほどが今つくった淡紅色。そして花芯に近い根元側だけ、赤をもう一度重ねて濃くします。
コスモスの花びらは根元から色が濃くなっていますから、この順番が守られているだけで本物らしく見えます。
畑の奥行きは、単調さを避けて生まれる
一面のコスモス畑を描くと、なぜか壁紙の模様のようになってしまうことがあります。原因は、花の大きさと高さがそろっていることです。
手前の花を二、三輪だけ、はっきり大きく濃く描いてください。花びらの切れ込みも、花芯の粒々も、ここだけ丁寧に描きます。そこから奥へ行くにつれて、花は小さく、色は淡く、輪郭はあいまいに。いちばん奥は、ピンクの点が散らばっているだけで十分です。細部を描かないことが、遠さの表現になります。
高さも意識してばらします。同じ背丈の花が横一列に並ぶと、どうしても単調になります。手前の一輪をとくに高く、隣を低く、その奥をまた少し高く。茎の傾く向きも、右へ左へ交互にすると、畑全体が同じ風を受けているように見えます。
描き込む場所と、描かない場所。その差が奥行きになります。
用意するもの
淡いピンクは白と赤を重ねてつくるので、白・赤・ピンク・紫・黄・オレンジがひととおり揃っているセットが描きやすくなります。奥の花を淡く描き分けたい方は、やわらかな淡色が多いセットを一つ足しておくと、混色の手間が減ります。
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商品を見るまとめ
コスモスが見ごろを迎えるのは、朝晩の風が冷たくなってからのほんの数週間です。花が終わるころには、あたりの景色はもう冬の入り口に変わっています。
風で揺れる花を描くのは、じつは静物を描くより簡単かもしれません。揺れているのですから、少しくらい形が狂っていても構わないのです。むしろ、そろえないこと、決めすぎないことのほうが大切でした。短く継いだ茎の線、わざと空けた花びらの隙間、ばらした高さ。どれも「整えない」ための工夫です。
白を下地にして色をつくるやり方も、細部を描かずに遠さを出すやり方も、このあとの季節にそのまま持ち越せます。次は色づきはじめた木の葉や、冬に向かう枯れ草の色を、同じ手順で試してみてください。淡い色がつくれるようになると、描ける秋の景色がぐんと広がります。
紅葉を色鉛筆で描く——緑から赤へ変わる葉の重ね方
色鉛筆の重ね塗りで深みを出す——レイヤリングの基本
暖色は近く、寒色は遠く——奥行きを色で描くコツ
コスモス畑を見かけたら、風のある日にこそ足を止めてみてください。揺れている姿を一度よく見ておくと、紙の上の茎が変わります。