色鉛筆の重ね塗りで深みを出す——レイヤリングの基本

色鉛筆で赤いリンゴを重ね塗りしている手元と、周りに並ぶ色鉛筆・削りかす・スケッチブック

赤い色鉛筆で塗ってみたのに、なんだか薄くて平たい。濃くしようと力を入れたら、今度は紙がテカってしまって、それ以上色が乗らない——色鉛筆を手にした方の多くが、最初にぶつかる壁です。

実は、色鉛筆の深みは筆圧では出せません。色を「重ねる」ことで出します。この重ね塗り、いわゆるレイヤリングを覚えるだけで、手持ちの12色セットから引き出せる色が何倍にも増えます。今日はその基本を、順番に見ていきましょう。

重ね塗りってどんな技法?——1度塗りとの違い

重ね塗りとは、薄く塗った色の上に別の色をふわりと乗せて、色の層を作っていく技法です。1度でぐいっと塗るのではなく、5回、6回と軽く往復させて少しずつ色を積み上げていきます。

左に1度塗りの平たい赤、右に4層重ねた深みのある赤を並べた比較図。断面図で色の層と光の反射も図示
同じ赤でも、1度塗りと4層重ねではここまで違う

なぜ重ねると深く見えるのでしょうか。色鉛筆の芯は、顔料をワックスや油で固めたものです。紙に乗ると、顔料の粒が紙の凹凸に引っかかって、うっすらと透ける膜になります。その上に別の色を乗せると、下の層が透けて見えたまま、上の層と混ざり合って目に届きます。

光が層を通り抜けて紙に当たり、また層を通って戻ってくる。この往復の中で色が複雑になるので、1色をベタ塗りしただけでは出ない、奥行きのある色味が生まれるのです。ステンドグラスを何枚も重ねたところを想像していただくと近いかもしれません。

Note 強く塗るのは逆効果です。筆圧をかけすぎると紙の凹凸がワックスで埋まってしまい、次の色が乗らなくなります。あのテカリの正体はこれです。薄く、軽く、何度も。これが重ね塗りの入口になります。

基本の順番——薄い色から濃い色へ

レイヤリングには鉄則がひとつあります。薄い色から濃い色へ、明るい色から暗い色へ。この順番だけは崩さないでください。

黄→オレンジ→赤→茶と4段階で色を重ねていく手順を、各段階のサンプルとともに並べた図解
黄から茶へ。明るい色を先に置くのが鉄則

理由はシンプルで、濃い色は薄い色を覆い隠せますが、薄い色は濃い色の上に乗らないからです。先に黒や濃紺を置いてしまうと、あとから黄色を重ねても何も起きません。取り返しがつかないのです。

筆圧は3段階で考えると分かりやすくなります。

  1. 1層目——なでるような力で

    影ができるかできないかくらいの筆圧で塗ります。紙の白がまだ透けて見える状態で止めてください。

  2. 2層目から3層目——色を定着させる

    少しだけ力を加えて色を定着させます。ここで全体の色味が決まります。

  3. 最後の層——締めたいところだけ強く

    やや強めの筆圧を使うのは、絵全体の1割ほど、いちばん暗い部分だけ。そう決めておくと失敗しません。

塗る向きも大切です。1層目を縦、2層目を斜め、3層目を横というように角度を変えて重ねると、線のスジが目立たず、なめらかな面になります。

軽い筆圧で色をのせていく塗り方には、やわらかい芯が向いています。硬い芯だと、薄く塗ろうとしても紙に色がつきにくく、つい力が入ってしまうためです。

油性色鉛筆72色|3.3mmソフト芯・紙製ケース|初心者の塗り絵 の商品画像

油性色鉛筆72色|3.3mmソフト芯・紙製ケース|初心者の塗り絵

3.3mmのソフト芯は、なでるような軽い筆圧でも色がのるので、薄い層を何度も重ねる塗り方と相性のよい芯です。72色あれば、明るい色から暗い色まで段階を追って並べられます。紙製ケースは開いたまま卓上に置いておけます。

¥1,580(税込)

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3色の重ねで生まれる色——混色の黄金ルール

色鉛筆の混色は、パレットの上ではなく紙の上で行います。ここで役立つのが、3色を使い分ける考え方です。

黄・青・赤の3色を重ねて中間色を作るサンプル図。10対6対3の面積比と、補色を重ねた際の彩度低下の例も併記
ベース・方向づけ・アクセント。面積の配分で色は濁らない

1色目はベースカラー。塗りたい面の全体に薄く敷きます。2色目は方向づけの色。明るくしたい側や暗くしたい側に、部分的に重ねます。3色目はアクセント。ごく狭い範囲だけに置いて、絵を引き締めます。

面積の目安は、10対6対3です。ベースを全面に10とするなら、2色目は6割の範囲、3色目は3割の範囲まで。この配分を守ると、色が濁らずにまとまります。

Note 注意していただきたいのが、補色の関係です。赤と緑、黄と紫、青とオレンジ。これらは色相環で向かい合う組み合わせで、重ねると彩度が落ちて灰色に近づきます。これは失敗ではなく、影やくすんだ色味を作るときの強い武器になります。ただし濁らせたくない場所には使わないこと。鮮やかさを保ちたいなら、色相環で隣り合う色同士を重ねてください。

隣り合う色を選ぶ場面が増えてくると、手元にある色数がそのまま表現の幅になります。中間色が細かく刻まれたセットなら、近い色相から3色を選び分けられるので、混色そのものに集中できます。

油性色鉛筆180色|3.8mm太めソフト芯|塗り絵・重ね塗り の商品画像

油性色鉛筆180色|3.8mm太めソフト芯|塗り絵・重ね塗り

3.8mmの太めのソフト芯で、広い面もムラなく塗り重ねられます。180色そろうと中間色が細かく刻まれるため、ベース・方向づけ・アクセントの3色を近い色相から選び分けやすくなります。重ね塗りを本格的に楽しみたい方の一箱です。

¥3,698(税込)

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やってみよう——リンゴと空を重ね塗りで描く

理屈が分かったら、あとは手を動かすだけです。最初の題材には、リンゴと空をおすすめします。どちらも形が単純で、色の層の効果がはっきり見えるからです。

左にリンゴ、右に空のグラデーション、それぞれ4層の重ね方を段階的に示した実践手順図
リンゴは黄色から、空は薄い水色から。どちらも4層で仕上がる

リンゴは、意外にも黄色から始めます。全体に薄く黄色を敷き、次に光の当たらない側だけ黄緑を重ねます。そのうえで全体に赤を薄く2回。最後に、影になる部分と軸のくぼみに赤紫か濃い青を少しだけ。下の黄色が透けることで、内側から光っているような赤になります。

Tip ハイライトは塗り残しておくのが正解です。白い色鉛筆で明るくしようとしても、重ねた層の上には乗りません。いちばん光る一点だけは、最初から紙の白を残しておいてください。

空は、紙を横にして上から下へ塗ります。まず全体に、いちばん薄い水色をムラなく1層。次に上半分だけ青を重ね、さらに上の3分の1だけもう1度青を重ねます。層の数がそのまま濃さの差になるので、力加減で調整するよりずっときれいなグラデーションになります。夕方の空にしたいなら、下のほうにオレンジやピンクを1層足してみてください。

失敗しないための3つのポイント

最後に、仕上がりを左右する実践的な注意点を3つお伝えします。

筆圧を一定に保つ手の動き、細目と中目の紙の比較、芯を長く削った色鉛筆とホルダーを並べた注意点の図解
手の力、紙の目、芯の削り方。この3つで仕上がりが変わる

筆圧を一定に保つ

人は疲れてくると自然に力が入ります。塗っている途中で腕がこわばってきたら、そこで一度手を止めてください。力が入った1層は、それまで積み上げた層をつぶしてしまいます。鉛筆の後ろのほうを軽く持つと、そもそも強く塗れないので安全です。

紙は中目を選ぶ

重ね塗りには、表面に適度な凹凸のある中目の紙が向いています。つるつるした紙は2層か3層で顔料が乗らなくなりますが、目のある紙なら5層でも6層でも受け止めてくれます。厚さは1平方メートルあたり200グラム前後あると安心です。

芯は長めの円錐形に削る

先がとがっていれば細部に、少し寝かせれば広い面にと、1本で使い分けられます。そして塗りながら鉛筆を少しずつ回すこと。同じ面ばかり当てていると芯が平らになり、線が太くなってムラの原因になります。短くなった鉛筆は、補助軸となるホルダーに差せば最後まで同じ持ち心地で使えます。

まとめ

重ね塗りで覚えていただきたいのは、次の4つです。

  • 筆圧 — 薄く軽く、何度も重ねる。強い筆圧はいちばん暗いところだけ
  • 順番 — 薄い色から濃い色へ、明るい色から暗い色へ。この順番だけは守る
  • 混色 — ベース・方向づけ・アクセントの3色を、10対6対3の面積比で重ねる
  • 道具 — 紙は中目、芯は長めの円錐形。塗りながら鉛筆を回す

色鉛筆は、1本ずつではたいしたことのない画材に見えるかもしれません。けれど層として重ねた瞬間に、まったく別の表情を見せてくれます。

・・・

まずは小さな紙の隅で、黄色の上に赤を重ねるところから試してみてください。その1回で、手持ちの色鉛筆の見え方が変わるはずです。

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