秋の夜、ふと窓の外を見上げたら、思いがけないほど大きな月が出ていた。そんな瞬間に、この景色をそのまま紙に残せたらいいのに、と思ったことはありませんか。
今年の中秋の名月は9月25日です。お月見の日に向けて、満月と月明かりの夜を色鉛筆で描く準備をしておきましょう。夜の絵は暗い色をたくさん使うので難しそうに見えますが、実際にはコツがはっきりしている題材です。光をどこに残すかさえ決まれば、あとは順番どおりに色を重ねていくだけで形になります。
目次
満月の輪郭と質感——クレーターは描かない
満月を描くとき、最初にやってしまいがちなのが、円を線で囲んでから中を塗る描き方です。ところが月は自分で光っているものですから、輪郭線を引いた瞬間にシールを貼ったような平たさが出てしまいます。
おすすめは、月そのものを塗らずに紙の白のまま残す方法です。硬貨やマスキングテープの芯を当てて薄く円の当たりを取り、そのふちのすぐ外側から空の色を置いていきます。月は周りが暗くなることで浮かび上がってきます。
模様も、クレーターを一つずつ描き込む必要はありません。肉眼で見える月の模様は、輪郭のはっきりした穴ではなく、ぼんやりした灰色のかすみです。ごく薄いグレーか青灰色を、丸い形を意識せずに雲のような曖昧な形で数か所に置いてください。しかも紙の白が透ける程度の薄さで十分です。描き込むほど月は光を失いますから、物足りないくらいで手を止めます。
夜の空のグラデーション——紺と藍と紫を重ねる
夜空を黒一色で塗ると、どうしても平らな暗さになってしまいます。夜の空の色は、紺、藍、紫がかった青が層になって重なった色です。ここまでは星空を描くときと同じですが、満月の夜には決定的な違いがあります。
星空は上ほど暗く、地平線に向かって明るくなります。ところが満月の夜は、明るさの中心が月になります。月のすぐ周りがいちばん薄く、そこから外側に向かって濃くなっていく同心円のグラデーションだと考えてください。
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月のふちの周りに、いちばん薄い色を置く
塗る順番は薄い色からです。月のふちの周りに、ごく淡い青灰色やクリーム色をふんわりと広げます。ここが月のかさになります。
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外へ向かって、藍から紺へ濃くしていく
かさの外側に藍色、さらに外側と画面の四隅に紺色を重ねます。いちばん暗くしたい隅には、紫がかった藍をもう一層置いてください。
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境目をなでてなじませる
色の境目は指先やティッシュで軽くなでてなじませます。層の切り替わりが消えると、空が一続きの暗さに見えてきます。
青灰色、藍、紺、紫がかった藍。夜空のグラデーションは、こうした近い青をどれだけ細かく刻めるかで表情が決まります。手持ちの色数がそのまま階調の細かさになる場面です。
Seascape油性色鉛筆24色|海を描くソフト芯|風景画・イラスト
海を描くために組まれた24色は、水色から藍、紺までの青系が厚く入っています。月のふちの淡い青灰色から画面の隅の濃い紺まで、混色に頼らず1本ずつ選んでいけるので、夜空のグラデーションがぐっと作りやすくなります。ソフト芯なので、軽い筆圧で薄く広げる最初の一層にも向いています。
¥1,280(税込)
商品ページを見る月明かりに照らされる雲の描き方
満月の絵をぐっと本物らしくしてくれるのが雲です。雲がひとすじ横切っているだけで、月が空の奥にあることが伝わり、画面に動きも生まれます。
夜の雲を描く鍵は、光が当たっている面がどこかを決めることです。月明かりは月から放射状に届きますから、雲の月に近い側のふちだけが明るく光り、反対側は空よりも暗く沈みます。この明暗の差だけで、雲は立体に見えてきます。
具体的には、空を塗る段階で雲の形を薄く残しておき、そこに灰紫や青灰色を置きます。月に近いふちの細い部分は塗らずに紙の白を残すか、クリーム色を軽く乗せます。雲の下側や月から遠い側には、空より一段濃い紺を重ねます。
雲の輪郭は線で囲まないでください。もやもやとした境目のまま、色の濃さの違いだけで形を作ります。月の手前を薄い雲がかかる場合は、月の白の上にごく薄いグレーを一層だけかぶせると、雲越しに透ける月になります。
ススキと月見団子を添えたお月見の定番構図
空だけでも絵にはなりますが、手前に何かを置くと一気にお月見の一枚になります。定番はやはりススキと月見団子です。
まず月の位置です。画面の真ん中に置くと、記念写真のような硬さが出ます。縦横を三等分した線の交点、たとえば右上あたりに月を置き、空いた左下からススキを斜めに伸ばすと、目線が自然に月へ向かいます。
手前のススキは、細かく描き込まないほうがうまくいきます。逆光で見る夜のススキは、色ではなく形として見えているからです。濃い藍や焦げ茶に近い暗い色でシルエットとして描き、穂の毛先だけほんの少し明るい色を乗せて月明かりを受けさせます。ここを描き込みすぎると、主役の月から視線が奪われます。
団子は縁側に三方を置いた設定にすると収まりがよくなります。積んだ団子の月に向いた側を明るく、反対側を灰紫で暗くするだけで、月明かりの中にあるように見えます。地面や縁側の板も、真っ黒ではなく暗い青紫で塗ると、夜の空気に馴染みます。
夜のスケッチを楽しむためのちょっとしたコツ
夜の絵を描くなら、一度は実際に夜空を見上げてから描いてみてください。ただし、暗い屋外でその場に色鉛筆で塗り上げようとするのは、あまりおすすめしません。手元が見えず、色の判断もできないからです。
外では鉛筆一本で十分です。月の位置、雲の形、手前の建物や木のシルエットを簡単な線で取り、色は言葉で書き込みます。空の下のほうが少し赤い、雲のふちがオレンジっぽい、といった一言のメモが、家に帰ってからの何よりの資料になります。スマートフォンの写真は暗部がつぶれてしまうので、記憶を補う言葉のメモのほうが役に立ちます。
スケッチ鉛筆70点セット|持ち運べる缶ケース|デッサン・プレゼント
夜の観察に持ち出すなら、必要なのは濃さの違う鉛筆が数本だけです。缶ケースにまとまっているので、その数本を抜き出して持ち歩けます。薄い1本で月と雲の位置をそっと取り、濃い1本で手前のシルエットを沈める。この使い分けが、暗がりの中でも迷わずできます。
¥3,298(税込)
商品ページを見る紙は白いものでも描けますが、灰色やクリーム色の紙を使うと、暗い色を塗る面積が減って夜の絵がぐんと楽になります。あらかじめ紙が中間の暗さを持っているので、明るい部分を白やクリームで乗せていくだけで光が出せます。
まとめ
満月の夜を描くときに覚えておきたいのは、次の3つです。
- 月 — 塗らずに紙の白で残し、周りの空を塗って浮かび上がらせる
- 空 — 月を中心に、近いほど明るく、外へ向かって濃くする
- 雲とススキ — 光は月の側だけに置いて、あとは思い切って暗く沈める
光る部分を描き足すのではなく、残す。この考え方に切り替わると、夜の絵は驚くほど描きやすくなります。中秋の名月まではまだ少し時間がありますから、それまでに一枚、練習で描いてみてはいかがでしょうか。当日の夜には、納得のいく満月が描けるはずです。
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月が出ている夜は、思っているより短いものです。晴れた日をひとつ見つけて、まずは空を見上げるところから始めてみてください。