旅先でふと「この景色を残しておきたい」と思ったとき、まずカメラを構えますよね。でも帰ってきて写真を見返すと、どれも似たように見えてしまって、あのときの空気の澄み方や風の音までは戻ってこない——そんな経験はありませんか。
絵で残せたらいいな、とは思うものの、実際には足が止まってしまいます。道具をそろえるのが大変そう、描き始めても時間が足りなくて途中で終わりそう、なにより人が行き交う場所で画板を広げるのは気恥ずかしい。そのどれもが、旅とスケッチを遠ざけてしまう理由です。
でも、道具は3点あれば足ります。そして1枚にかける時間は15分で十分です。秋の連休、まだ出かける予定が残っている方も、次の旅の計画を立てている方もいらっしゃるでしょう。9月下旬は空気が澄んで遠くまで見通せるようになり、木々の先の方がうっすら色づきはじめる時期です。描くにはちょうどいい季節の、持ち物と手順のお話をします。
目次
持ち物は3つで足りる——旅の荷物に入れる道具と選び方
スケッチブックは、B6からA5のあいだを選んでください。B6はおよそ128×182ミリ、A5は148×210ミリで、どちらも上着のポケットや小さなかばんに入ります。旅先では大きな紙ほど描き上がらないので、迷ったら小さいほうを選んでおくと安心です。
大事なのは表紙の固さです。片手で持って膝の上や手のひらで描くことになるので、表紙を持ち上げたときにぐにゃりと曲がるものは向きません。売り場で背表紙をつまんで持ち上げてみて、先端が5センチ以上垂れ下がるようなら、もう少し厚いものを探してみてください。紙の厚さは1平方メートルあたり120グラム前後あれば、鉛筆でも色鉛筆でも安心です。
鉛筆は硬さの違う2本を選びます。おすすめは2Bと4Bです。2Bで下描きと細い線を、4Bで影と締めの線を担当させると、持ち替えるだけで濃さが変わります。芯の削り方は、2Bを少し尖らせて、4Bはあえて丸めに。丸い芯は面で塗れるので、屋根や地面の影があっという間に埋まります。
消しゴムは練りタイプが便利です。押し当てて薄くする、とがらせて光を抜く、といった使い方ができるうえ、消しかすが出ません。旅先で地面を汚さないのは、思っている以上に気楽さにつながります。
鉛筆と練り消しは、セットでそろえておくと、その日の行き先に合わせて持ち出す1本を選べます。色鉛筆も、缶ケースの24色から3本だけ抜いて出かけると身軽です。
デッサン・スケッチ鉛筆|18点セット|紙製ケース
5Hから14Bまで、14段階の硬さがそろうスケッチ鉛筆のセット。練り消しと消しゴムも入っているので、下描き用と影用の2本に練り消しを添えれば、旅の持ち物がそのまま整います。軽い紙製ケースで、外出先にも持ち出しやすい一箱です。
¥1,000(税込)
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Seascape油性色鉛筆24色|海を描くソフト芯|風景画・イラスト
青・緑・セピアの系統が豊富な、風景画向けの24色。空の青、木々の緑、影に使える茶色の3本を、この一箱から選べます。コンパクトな缶ケースなので、スケッチ旅行にも気軽に持ち出せます。
¥1,280(税込)
商品を見る15分の時間割——見つける3分、描く10分、仕上げの2分
描きかけで終わってしまう原因は、時間が足りないことではなく、時間を区切っていないことにあります。先に配分を決めてしまえば、15分でもきちんと1枚になります。
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探す3分——座る場所を決めて、枠をとる
歩き回るのは2分まで。座れる場所を見つけたら、紙の上に指で四角を描くように、画面の枠を薄く取ります。紙の端から1センチほど内側に、鉛筆でぐるりと線を引いてください。この枠があるだけで「どこまで描くか」が決まり、迷いが一気に減ります。
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描く10分——大きな形、区切り、手前の順に
最初の3分は大きな形だけ。建物なら箱、木なら丸い塊、山なら一本の線。細部はまだ見ません。続く5分で、その中の目立つ区切りを入れていきます。窓の並び、屋根の境目、道の縁。最後の2分で、いちばん手前にあるものだけ少し細かく描きます。手前が描き込まれていれば、奥がぼんやりしていても絵として成立します。
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仕上げの2分——濃いところだけを置く
4Bに持ち替えて、影のいちばん暗い部分を3か所か4か所、はっきり置いてください。軒下、木の根元、人の足元。ここが締まると、それまでの薄い線がまとまって見えます。色鉛筆を持っているなら、空にひと刷き、紅葉しかけた葉にひと筆。全部は塗りません。
旅先で絵になる場所の探し方——線が交わる角・手前の枝・光の当たる面
絵になる場所は、風景そのものが特別かどうかではなく、線の集まり方で決まります。目印は3つです。
ひとつめは、線が交わる角。道と建物の境、階段と手すり、水平線と堤防。まっすぐな線が2本以上ぶつかっている場所は、それだけで画面が締まります。広い景色の前に立ったら、いちばんはっきりした角を探して、そこを紙の中心からやや外した位置に置いてみてください。
ふたつめは、手前の枝や柱です。画面の端に、近くにあるものを一本だけ入れると、奥行きが出ます。9月下旬なら、色づきはじめた葉のついた枝がちょうどいい役目をします。手前のものは濃く太く、奥のものは薄く細く。それだけで距離が生まれます。
みっつめは、光の当たっている面です。秋の日は低い角度から差すので、建物の片側だけが明るくなります。その明るい面は紙の白のまま残して、隣の暗い面だけ塗る。明るさは塗って作るのではなく、残して作ります。
止まっていないものを描く——歩く人と揺れる木
屋外で描くとき、いちばん困るのが動くものです。でも、人のいない風景は少しさびしいですし、揺れる木のない秋の景色もありません。コツは、見ながら描くのをやめることです。
動くものは、3秒だけ見て形を覚え、目を離してから紙に描きます。歩く人なら、頭の位置と肩の傾き、足の開き具合。この3つを覚えたら、あとは紙を見て一気に引きます。もう一度顔を上げたとき、その人はもういません。それでいいのです。覚えた形のほうが、見ながら追いかけた線よりずっと生き生きします。
人物は後ろ姿から始めてください。顔を描かなくていいぶん、格段に易しくなります。描く順番は、縦線を1本、上に小さな丸、肩の高さで短い横線、下に足を2本。全部で5本の線です。大きさの目安は、その人の頭が建物の何階分の高さにあたるかを見て決めると、風景の中に自然に収まります。人は1枚に2人か3人まで。それ以上は画面がにぎやかになりすぎます。
木は、葉を一枚ずつ追わないことです。全体を雲のような塊と見て、まず輪郭をぐるりと囲みます。次に、その塊の下側3分の1だけを濃く塗る。光は上から来るので、それだけで立体に見えます。枝は幹から3本か4本だけ、塊の中にちらりと覗かせれば十分です。風で揺れていても、塊の形はそれほど変わりません。
まとめ
旅先のスケッチに必要なのは、小さくて表紙の固いスケッチブック、硬さの違う鉛筆2本、練り消しゴム。この3点です。時間は15分、内訳は探す3分、描く10分、仕上げの2分。探すときは線が交わる角と手前の枝と光の当たる面を目印にして、見えているものの半分だけ描きます。動くものは3秒見て覚えてから、目を離して一気に引く。
うまく描けたかどうかは、正直あまり関係ありません。15分そこに座って、空気の冷たさや遠くの音を感じながら手を動かした時間そのものが、写真には写らない記録になります。数か月後にページをめくったとき、線のぶれの一本一本から、その日の風が戻ってくるはずです。
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次の行き先が決まっているなら、かばんの片隅に小さな一冊と鉛筆を入れてみてください。気が向いたら15分だけ座る。それだけで、この秋の旅の記憶は少し違う形で残ります。