色鉛筆にも、デッサン鉛筆にも、先があります。先があるから線が引けて、線が引けるから輪郭を描けます。ところがソフトパステルには、その先がありません。角型の棒は使っているうちに角が丸まり、芯が柔らかいので、削り直しても細い線は続きません。
これは弱点のようでいて、この画材の性格そのものです。太い棒の側面を紙に当てて粉を置き、指でならす。細い線に頼らない描き方へ切り替えてしまえば、24色1セットと指、練り消し、擦筆だけで秋の果物は描けます。
では、輪郭を描かずにどうやって丸みを出すのか。答えは、色の面と面の境目を、ぼかすかぼかさないか、その加減だけで決めることです。ぶどう・柿・栗は、この練習にうってつけのモチーフです。粉っぽい、つるりと光る、ざらざらする。三つの質感が、粉という素材そのもので描き分けられます。
ぶどう——粉っぽさを、粉のまま置く
ぶどうの表面には、白っぽい粉が薄くのっています。他の画材ではこの質感をわざわざ工夫して再現しますが、ソフトパステルははじめから粉です。粉っぽさを、粉のまま置けばいい。これがパステルでぶどうを描く一番の理由です。
粉の置き方には二通りあります。棒の側面をそのまま紙に当てて置く方法と、あらかじめ削って粉にしておき、指やスポンジでのせる方法です。後者はムラのない均一な面をつくれますが、削る手間がかかり、置いた粉が動きやすくもあります。この記事は最初から最後まで、棒の側面を紙に当てて置き、指でならす方法だけで進めます。
まず一粒を、一つの円として置きます。輪郭で囲わないでください。赤紫の粉を丸くのせて、指の腹で中心から外へ軽く回すだけです。円が並ぶと、それだけで房に見えてきます。
粒と粒の区切りは、線ではなく、間に差す濃い色でつくります。藍色や濃い紫を棒の角で短く置き、そこだけはぼかさずに残す。ならした面と、ならしていない暗がり。この差がそのまま粒の境目になります。
表面の白い粉は仕上げです。白か淡い水色を指先に少し取り、粒の上半分をなでるだけでのせます。塗ってはいけません。粉が紙に食い込むと、白がべたりとして粉っぽさが消えてしまいます。最後に練り消しを小さく丸めて、光る点をポンと押して抜けば完成です。
ソフトパステル24色|ぼかしを楽しむ角型|初心者の絵画・プレゼント
この記事で使うのは、この1セットと指、練り消し、擦筆だけです。角型なので、平らな側面で粒や実を面として置き、角のエッジで粒の間の暗がりを差す。伸びのよい芯質で指でのばしやすく、ビビッドからアースカラーまで24色そろうので、秋の果物の落ち着いた色も探しやすい構成です。衝撃保護スポンジ入りのケース付きで、折れやすいパステルを守りながら保管できます。
¥1,298(税込)
商品ページを見る柿——ならす回数で、ツヤの強さが決まる
柿も輪郭を取りたくなる形ですが、ここも我慢します。明るいオレンジの粉を実になる範囲へ広めに置き、指の腹で外へならしてください。ふちがふわりとぼけた時点で、もう丸みは始まっています。
そのうえに濃いオレンジ、最後に朱色。薄い色から濃い色へという順番は、パステルでは特に大事です。粉は重ねるほど混ざって濁るので、逆にすると明るさが二度と戻りません。
ここで大切なのは、柿を完全な球にしないことです。柿は上から見ると四つの面がある、少し角ばった立体です。それを出すのは輪郭線ではなく、指を止める位置です。実の面をならすとき、上面から側面へ向かう途中で指をふっと離してください。ならして薄くなった上面と、まだ粉が厚いまま残った側面。その間にできる粉の段差が、面の変わり目として読み取られます。
ツヤの強さは、ならす回数で決まります。光の帯は練り消しの角で抜き、そのすぐ隣にならしていない濃い粉が残っていれば、それだけでつるりと光ります。
栗——ぼかす皮と、ぼかさない座
栗は、一つの実の中でぼかしの加減を切り替える練習になります。
丸くふくらんだ皮は、茶色の粉を置いてから、指でしっかりならします。ならすほど粉は紙の目に入り込み、表面が平らになって光を返すようになります。パステルでツヤを出すとは、粉を減らして紙に密着させることだと考えてください。
下の白っぽい座の部分は、その逆です。粉を置いたまま、指を触れさせません。紙の目の上に粉が浮いている状態が、そのままざらつきになります。ここは描き込むところではなく、何もしないところです。細かいすじを足そうとするよりも、置いた粉をそのまま残すほうが、ずっと栗らしくなります。
皮と座の境目は狭いので、指では太すぎます。ここは擦筆の先を使ってください。広い面は指の腹、狭い面は小指の側面、細部は擦筆。ぼかす道具は、ならしたい面積で使い分けます。
三つを並べて——ぼかさない場所を先に決める
三つを一枚に置くとき、最初にやってほしいのは、ぼかさない場所を先に決めてしまうことです。ぶどうの粒の間、柿の実とヘタの境、栗の座。この三か所には指を入れないと決めておく。あとは全部ならしてしまってかまいません。
背景も、パステルならではの楽しみです。棒を寝かせて一往復させるだけで広い面が埋まるので、果物の後ろに灰みがかった緑や薄い茶をさっと置き、指で外へ流してみてください。輪郭を描いていないぶん、背景の粉が果物のふちに触れることで、かたちが逆に浮かび上がります。
まとめ
同じぶどう・柿・栗を、色鉛筆では色を重ねて、鉛筆一本では濃淡だけで、そしてソフトパステルでは粉の面とぼかしの加減で描いてきました。
- 輪郭を描かない — 面と面の境目の、ぼかし加減だけで丸みを出す
- 色は薄いほうから — 粉は重ねるほど混ざる。逆にすると明るさが戻らない
- ぼかすとは密着させること — ならすほど粉が紙に入り、そこがツヤになる
- ぼかさない三か所 — 粒の間、実とヘタの境、栗の座。ここに指を入れない
面白いのは、画材が変わると見るところまで変わることです。色鉛筆ではどの色を選ぶかを考え、デッサンではどこがいちばん暗いかを探し、パステルではどこをぼかしてどこを残すかを決める。同じ果物を前にしているのに、目の使い方がまるで違います。
三つ描き比べてみると、自分がどの見方をいちばん楽しいと感じるかが分かってきます。それが分かることは、上手に描けるようになること以上に、絵を続けていくうえで大きな支えになります。
今年の秋は、かごの果物を一つだけ皿に残して、三つの画材を順番に手に取ってみてください。